羊の木 映画感想

完全にノーマークだったんですが、予告や宣伝を見かけて結構面白そうだったので観に行きました。

映画チラシ 羊の木 錦戸亮

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(2018/2/19 23:23時点)


監督:吉田大八
主演:錦戸亮


過疎化の進む魚深市に新たに移住してくる男女6人の受け入れ担当を任された市職員の月末。
彼は1人1人を迎えに行くが、後に彼らが殺人を犯した元受刑者であると知らされる。戸惑いながらも彼らを見守る月末だったが、平和で静かな魚深市の日常がある日の事件をきっかけに脅かされることになり…という話。


移住者が全員人殺しというのは事前の触れ込みで知っていましたが、自治体の極秘プロジェクトとして扱われるという設定が斬新。市にとっては過疎化の解消になり、また更生意欲はあるが受け入れ先の見つからない元受刑者の受け皿にもなる一石二鳥のプロジェクト。
うーん…とはいえ、市民に何も知らせない上に警察も関知していないというのは少々リスクが高すぎるような市民が知ったら混乱するからというのは分かるけど、雇用にあたって履歴書には賞罰の欄があるくらいだし。

それはともかくとして、最初は何も知らずに1人1人をお出迎えする月末。
どう見ても友達じゃないだろ!って感じの人に付き添われてたり、フードファイターもびっくりのハイスピードでご飯をかっ込んだり、服がカビ臭くないかと気にしたり、明らかに様子のおかしい3人を前にしてものほほんと接する月末がいかにも平和な田舎育ちの兄ちゃんって感じ。というか、「いい街ですよ。人も良いし魚も美味い」しか言ってないけどアピールポイントそこしかないんかい
しかし4人目が明らかに塀の中から出て来るわ組員っぽい人たちに絡まれるわでさすがの月末も彼らが出所帰りだと気付く。
そして徐々に狂い始める魚深町の日常。

マリンバのようなBGM、杉山の不穏な言動、栗本がちょいちょい見上げる不気味な像、姿を見てはいけないという守り神・のろろ様の言い伝え、「羊の木」が描かれた不気味な絵、突然の豪雨、などなど全体的に不安を煽るような材料が満載で肩の力が入りっぱなし。ヒゲ剃りシーンとか見ているこっちが無駄に緊張して手に汗握ってしまいました。
画面から漂う緊張感の中で次に何が起こるのかまったく予測できず、ずっとハラハラドキドキしながら見守っていました。観終わった後の肩こりが半端ない。。笑

とはいえ、単なるサスペンスではなく罪を償って出所してきた元受刑者に行き場はあるのか。人々は彼らを受け入れられるのかという複雑なテーマが根底にあり、色々と考えさせられる映画でした。
作中の6人は元受刑者といっても一括りにはできず、それぞれの事情や思惑がある。罪を償い二度と同じことはしないと誓う者、前科がバレないか怯えて暮らす者、まったく反省していない者…。また、殺人を犯した経緯も様々である人は身を守るため、ある人は不慮の事故、酔った勢い、またある人は能動的に暴行を加えて。
それぞれ何を思い、魚深でどういう風に生きていくのか。短い時間ながらも1人1人に焦点を当て、元受刑者も1人1人が違う人間だという当たり前だけれど忘れがちなことを伝えようとしていたように思います。

EDの斜めに流れていくテロップがこれまた不安感を煽る。。
漫画が原作だとは知らなかったんですが、いがらしみきおって忍ペンまんまるの人じゃないですかこういう作品も書くんですね映画版と漫画版ではまた設定などに違いがあるようですが。

以下、ネタバレ感想です。観てない方は注意してください








移住してきた6人が全員殺人犯という状況の中で主人公の月末はどこまでも普通な青年。殺人とは縁遠い暮らしをしておりお人好しで純朴。それでいて、殺人犯と知りながら杉山のパシリ扱いを静かに跳ね除けたり、明らかに組員っぽい人との間に仲裁に入ったりとなかなか肝の据わった一面も。
そんな月末ですが、想い人である文が元受刑者の1人・宮越と恋仲になったことを知り、嫉妬に駆られて秘密にしておかなければならない宮越の前科を文に話してしまう。しかしその感情も実に人間臭いし、後で己の浅はかさを猛省する。どこまでも普通の若者です。
後輩職員の田代が結構いいキャラしてたなぁ。課長の言動を怪しんでしれっとPC盗み見したり、殺人犯と知りながら人が足りないからと6人をのろろ祭りに誘ったり、KYで怖いもの知らずな今時の若者といった感じ。

対する6人は、殺人を犯した過去を背負って魚深で新たな人生を歩もうとしている。
そして、理髪店の主人やクリーニング店の女主人など彼らを理解し受け止めてくれる人がいたのはこの物語の救いでした。理髪店の主人もまさかの前科者だったとは彼もまた罪を償って肩身の狭い思いをしながらもやり直そうとしている1人。だからこそ福元の気持ちを理解し、やり直そうと必死にもがく福元を受け入れた。
また、顔に傷のある大野を「悪い人だとは思えない」と引き留めたクリーニング屋のおかみさんは、不器用で愛想がなくとも真面目に仕事に取り組む大野の人柄を近くで見ていたからこそそう判断した。その信頼は大野が自ら勝ち取ったもの。
元受刑者と分かれば一般人なら誰だって少なからず警戒心を持つものだしすんなり受け入れることは難しいでしょう。しかし、悔い改めてなお許しが得られなければ人はまた狂ってしまうかもしれない。
色眼鏡で人を見ないということは案外難しい。大事なのは相手の人柄をよく見ることなのかも。。

太田が月末父を好きになったのがよく分からなかったけどいきなり盛り出したけど一目惚れだったのか?親子ほども歳の離れた男性を?
途中までもしかして保険金目当てと勘ぐってしまいましたが、月末とのやり取りを見るに本気で月末父を好きになっているようですね。
最初は太田のことを受け入れられなかった月末ですが、女性房での苦い思い出を語り「私はもう二度と罪を犯しません」とキッパリ誓った太田を見て彼女に対しての態度が軟化する。太田もまた、心に爪痕を抱えながらもやり直そうとしている人間の1人だということですね。

そして、出所しても反省の色なしで新たな罪を犯そうとした、犯したのが杉山と宮越。
いかにもな雰囲気を醸し出す杉山はともかく、宮越は6人の中でもっとも人当たりが良く島にもすっかり馴染んでいたので裏の顔に戦慄しました
息子が世話になったという男性が宮越のことを探して島にやって来る辺りから雲行きが怪しくなってくる。息子が世話に…あっ(察し
市役所に断られた男性は自力で宮越を探し出すも、やっと見つけた宮越は彼の名前を聞いても「どちら様ですか?」と分かっていない様子。あっ…これ、殺しすぎていちいち覚えてないやつだ((((;゚Д゚)))))))
と、徐々に明らかになっていく彼の裏の顔。過剰防衛にも関わらず執行猶予とならず服役していたのは前科にならない少年院送りになっていた過去があったから。
よくよく考えたら、出所直後にあんな風に平然としていたこと自体が妙だったんですよね。他の人たちのように刑務所の生活が抜けきっていなかったり新しい生活に溶け込むまでに時間がかかるということもなく。
杉山いわく、虫でも殺すように平気で何人も殺せる気質。悪の教典の蓮実のようなサイコパスといったところでしょうか。。
顔色1つ変えずに杉山を轢き殺す場面が怖すぎて文と待ち合わせした後で家の玄関に宮越が立ってた場面は「ヒェッ!」と飛び上がりそうになりました…。
いくら友達だからって、過去にも少年院に行ってたことが分かった後でノコノコ夜道を付いていく月末くん無防備すぎるよ!

しかし宮越は蓮実とは違って、変われない自分に対しての悲哀を感じていた。
人殺しと知りながら彼と普通に接してくれた月末に対しては「友達だから」としきりに彼を信頼してあらゆることを受け入れていた。
途中まで、もしかして宮越は月末に恋愛感情的なものを持っていて、彼の恋路を邪魔したくて文と付き合ったのでは?とか思ってしまいました
でも実際、宮越は文に対してはそこまで特別な感情を抱いているようには見えなかったんですよね。人殺しだと知られたと分かって一瞬彼女を殺そうとしていたし。(月末が文に秘密を話した後だったので口封じと思われる)
彼は分け隔てなく接し自分を友達だと言ってくれた月末に自分の運命を託す気になったのかもしれない。どうしようもない、変われない自分に引導を渡すのが月末ならばそれも本望だと。「月末くんたぶん勝つよ」という発言からそんな風に感じました。

人身御供の言い伝え通り2人一緒に崖から飛び降り、片方が生き残り片方が死ぬ。
「潮風で老朽化している」という伏線があったとはいえ、あのクリーンヒットぶりには盛大にツッコミたくなりましたが、よくよく考えるとあれはのろろ様の神罰だったのかもしれない。
罪を悔い改めやり直そうとしている4人を新たな住民として受け入れ、再び悪事に手を染め街を脅かそうとした杉山と宮越は住民の資格なしとのろろ様が裁きを下したのかも。オカルトな話も、映画全体に漂う異質な空気としきたりを守りながら営まれる「のろろ祭り」の様を見せられた後では妙に説得力があるというか。。因果応報とはよく言ったものですね。
いくら受刑者にもやり直す権利はあるとはいえ、死んだ者は2度とやり直すことができない。それは絶対的な事実であり、そのような大きな罪を犯して悔い改めることができない杉山・宮越のような人間に果たしてその権利があるのか?というモヤモヤは解消されました。

しかし宮越が死んだ後も不思議と肩の力を抜くことはできず最後まで緊張しっぱなしでした。
月末の車と文のバイクがすれ違うシーン、その後で文が事故るんじゃないかと思って身構えてしまった
仕事を辞めてフラッと戻ってきた文も元受刑者なんじゃないかと勘ぐっていたけど、普通のヒロインだったようです。

平和を取り戻した魚深市ですが、福元のあの暴れっぷりはちょっと心配といえば心配かな本人は飲まない様に気を付けてるけど、今回みたいに勧められたりストレスで酒に走ってしまうなんてことがまたあったら。。
色眼鏡で見るのはよくないと思いつつも、宮越みたいに一見普通だけどヤバい人もいるわけで見極めはなかなか難しいですね
テントの中での乱闘みたいに、いざトラブルになった時の行動にその人の本質が出るのかもしれません。
傷を負いながらも手荒なことはせず止めようとした大野と、何の迷いもなく思いっきり蹴り飛ばした宮越。あの6人が集結するシーンは見ごたえがありました。

それにしても、タイトル「羊の木」の意味は最後まで謎だったなぁ。。
冒頭に「タタールの羊」という逸話が紹介されますが、それがこの物語とどう結びつくのかは分からないまま。木になる「羊」が何も知らない市民、それを貪る「狼」が受刑者たちを差すのかと思っていましたが、むしろ「羊」が新しい人生をやり直そうとする4人(宮越と杉山を除く)を差しているのかな?と観終わった後は思えてきました。

分からないなら勝手に考察・解釈するしかないのですが、鍵を握るのは「羊の木」の絵を部屋に飾っていた市川実日子演じる栗本。
彼女の行動は実に不可解で、夕飯の魚の残りや清掃中に見つけた鳥の死骸などをアパートの外に次々埋めていく。その行動の不気味さがまた不安を煽る要素の1つになっていたわけですが、彼女自身は特に危険な人物ではなかった。
栗本は元受刑者の中で唯一、他の市民たちと深い関わりを持たず清掃会社の同僚や月末と必要最小限のやり取りをするだけ。他とは隔絶し独立した存在感を醸し出している。
そんな彼女が終盤で亀の死骸を見て泣く子供に「土に埋めれば木が生えてまた亀に会えるから」というようなことを言う。そしてアパートの外のこんもりと盛り上がった塚の1つから若葉が芽吹いている。
彼女が死骸を埋めていたのは、「羊の木」の絵のようにそこから新しい命が生まれると信じていたから…ということでしょうか。
そしてそれはまるで島に残った4人(床屋の主人も入れたら5人ですが)を象徴しているようにさえ見える。社会的に死んだ元殺人犯たちが暗い房の中に潜って罪を償い、そして新しい人生を歩もうと生まれ変わる。人はその人の気の持ちよう次第で変わることが出来るのだという明るいメッセージが込められているように見えました。(あくまでも個人の勝手な解釈ですが)

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